2007年3月11日日曜日

月光荘事件 Ⅰ

「月光荘事件」と呼ばれる、少し奇妙な出来事があるのをご存知だろうか。
昔、東京・銀座の或る画廊で起きた、殺人事件だ。
しかし、僕自身はこの事件を「殺人事件」と呼んでいいものか、戸惑いを感じている。
確かに外見的には、人が一人殺され、警察が殺人事件として捜査し、解決し、報道されて、そして時の経過とともに忘れられていった、他の多くの「殺人事件」と同じなのだが、内側からこの事件を眺めてみると、あまりにも不可解な部分が多すぎるのだ。

なぜ、僕が「内側から見る」などということができるのか。
話は数年前にさかのぼる。
関係者が多いため曖昧にせざるを得ない部分があるが、とにかく今から10年ほど前、僕はある会社の経理部に勤めていた。

経理部といえば、想像通りの地味な部署であり、お世辞にもドラマティックな仕事が日々舞い込んでくるとはいえない、どちらかといえば他部署が作る厄介ごとの後片付けが仕事の大半を占める、「企業組織的皿洗い」といった風情の部署である。
「どんな髭剃りにも哲学はある」のかも知れないが、髭は自分の髭であり、皿は他人の皿である。考えることはもっぱらそれが何枚で、いつまでに洗い終えなければならないのか、だけである。
昼過ぎに
課長に呼ばれたその日も、言われたことを淡々とこなし、早く引けてやろうぐらいに思っていた。

課長が僕に命じたのは、うちの会社が1年前に買収した銀座の或る画廊の会計帳簿調査と、購入価額の算定根拠の整理だった。
近く国税局の調査が入るため、おかしな書類が出てこないよう、「こぎれいに」しておく必要があるのだろう。
この手の仕事は、かなりめんどくさい部類に入る。
企業買収などというと聞こえはいいが、相手は税金対策上、法人成りをしているだけの個人事業者である。当然帳簿も、資産台帳も雑然としており、どれが会社のもので、どれが個人のものかもわからないような有様である。1年前の買収時、僕は現場に立ち会っていた。とにかく、その画廊事務所のすべての書類を箱につめ、トラックごと大阪の本社に戻り、そのまま僕の会社の倉庫に、文字通り投げ込んで、後はそのままになっている。本当に必要だったのは税務申告書と土地権利書だけだった。

楽器


弾ける楽器があるのは、とてもいいことだと思う。
ギターという楽器は、一番習得しやすい楽器じゃないかな、という気がする。
そして弾く人の性格や、そのときの気分が最もよく出る楽器である。
脳の一部が、指に伝わり、音に伝わる。
なにを考えているのか、一目瞭然である。
好きだったギタリストを書き出そうとしてみたが、意外に少ない。
高中正義:この人のはよく聞いた。フレーズが歌のようにキャッチーで、すばらしい。